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東京高等裁判所 昭和48年(ラ)473号 決定

抗告人 幕張町漁業協同組合

右代表者理事 林田伍郎

右代理人弁護士 渡辺真次

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣旨及び理由は、別紙「即時抗告申立書」と題する書面記載のとおりである。

しかし当裁判所も亦、本件事情届はこれを受理すべきでないと判断するものであって、その理由は、左に附加補正する外、原決定理由説示のとおり(但し同決定三枚目表七行目から八行目にかけての「差押えにかかる金銭」とあるを「差押えにかかる債権の目的物たる金銭」と補正する)であるから、これを引用する。

抗告人の主張は要するに、本件の如く一定の金銭債権に対し仮差押ないし差押と配当要求が競合した場合に第三債務者の為し得る供託は、金銭に限らず有価証券によってもこれを為し得るということに帰するのであるが、金銭債権を執行債権とする強制執行においては、その執行の対象は様々であっても、結局それらはすべて換価手続を経て金銭と化し、この金銭という分配が容易で確実なものの存在を前提として配当手続が予定せられていることは、実定法上の各規定の趣旨に徴して明らかである。殊に抗告人がその供託の根拠とした民事訴訟法第六二一条は、右執行の対象が債務者の有する第三債務者への金銭債権の場合に、債権差押および取立命令と配当要求の競合のあったときは、第三債務者をしてその金銭債務額を供託せしめ、これに因り、その責を免れしめると共に、複数債権者間のじ後の手続を統一的且つ確実に行わんとするものであるから、その供託物件を金銭とする理は一層然りといわなければならない。

抗告人は、第三債務者たる抗告人が本件債務者に支払うべきものは、抗告人が件外千葉県より受領する漁業補償であり、右県はその履行として、現金の外、本件供託物たる県債を交付したので、これをそのまま供託したにすぎないと云うが、右決定が債務者の第三債務者に対して有する金銭債権の差押及び取立を命じている以上、上記の理を左右するものではない。さらに抗告人は、右の如き場合には、執行裁判所が民事訴訟法第六一三条を適用ないし準用して右公債を換価現金化すべしと主張するが、執行裁判所、即ち配当裁判所がさようなことを為し得べき権限、手続等を定めた規定も存せず(もし本件執行の対象が、債務者の有する金銭債権でなく、公債の給付を求めることができる権利であるならば、執行機関は同法第五八一条、第五八五条等により、―恰も上記第六一三条の場合と同様に―、競売・任意売却等の方法によってこれを換価することとなるが、右以外に、執行機関が公債を換価現金化する余地は存しない)、又上来述べたところからも、抗告人主張の如き見解は法の趣旨にそぐわないものというべく、採用するに由なきものである。

然らば、抗告人の為した公債による本件供託は民事訴訟法第六二一条に反する無効のものというべきであるから、これに基く本件事情届を不適法とした原決定は正当というべく、本件抗告は失当である。

よって主文のとおり決定する。

(裁判長判事 西岡悌次 判事 青山達 小谷卓男)

〈以下省略〉

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